『豊島区の「築古木造アパート」相続と立ち退き実務の壁』〜池袋本町・要町・長崎に密集する昭和の木賃アパート。家賃収入は雀の涙、高齢入居者と立ち退き料、解体して優良資産へ再生する基本実務〜

「親が昭和40〜50年代に建てた豊島区内の木造アパートを相続した。全6室あるが、住んでいるのは70代〜80代の高齢者2人のみ。家賃は月4万円程度で収入はわずかなのに、雨漏りの修繕費や固定資産税で毎年持ち出しが出ている。建て替えや売却をしようにも、入居者にどうやって退去してもらえばいいのか分からない……」
池袋本町、上池袋、長崎、南長崎、千早など、かつて下宿や単身者向け賃貸として栄えたエリアには、こうした「築40〜50年超の木造賃貸アパート(いわゆる木賃アパート)」が数多く残されています。入居者がいる限り取り壊すことも売ることもできず、維持費と災害リスクだけが膨らみ続ける築古アパートの出口戦略を分かりやすく解説します。
1. 豊島区の木賃アパートが抱える「低収益・高リスク」の構造
高度経済成長期からバブル期にかけて、豊島区には地方からの上京者や学生を受け入れるための木造モルタル2階建てアパートが大量に供給されました。
当時は満室経営で一族を潤した優良資産でしたが、数十年が経過した現在、以下のような深刻な機能不全に陥っています。
・入居者の極端な高齢化と固定化
昭和の頃から数十年住み続けている入居者が70代・80代となり、新たな若年層の入居者は入らず、空室が埋まらない。
・低すぎる家賃と逆ざやの修繕費
当時の古い賃料設定(月3万〜4万円台)のままであるため、満室でも利回りが低く、築年数の経過に伴う給排水管の破裂、屋根の雨漏り、外壁の崩落などの修繕費で年間の収支が簡単に赤字へ転落する。
・火災・倒壊時の損害賠償責任
豊島区の木造密集地域に建つ旧耐震物件は、大地震や隣家からの延焼で全壊・延焼する危険性が極めて高い。万一、建物の倒壊で入居者や近隣に人的被害が出た場合、建物の設置保存瑕疵(民法第717条)に基づき、所有者である相続人が数千万円〜数億円規模の損害賠償責任を個人で負うリスクがあります。
2. なぜ「古くなったから出て行ってほしい」が通用しないのか?
相続人側からすれば「建物が寿命なのだから退去してほしい」と考えるのが自然ですが、日本の法律(借家法・借地借家法第28条)は入居者の居住権を強力に保護しています。
大家側から賃貸借契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするためには、裁判所が認める「正当事由(せいとうじゆう)」が必要です。
単に「建物が古いから」「実家のアパートを更地にして売りたいから」「赤字だから」という大家側の都合だけでは、正当事由として一切認められません。 正当事由を法的に成立させるためには、
1.建物の老朽化・耐震不足の客観的証拠(建築士による耐震診断結果など)
2.大家側がその土地を使わなければならない必然性
3.入居者に対する「十分な立ち退き料(金銭補償)」や「移転先のあっせん」 を総合的に提示しなければなりません。感情論で「出て行ってくれ」と迫っても、入居者から「住む場所がない」と拒否されれば、法的には完全に手詰まりとなります。
3. 立ち退き料の相場と実務で使える「3大出口戦略」
築古アパート問題を解決するためには、無計画に突撃するのではなく、最初に出口の形を決めてから逆算して動く必要があります。
出口1:立ち退き合意を取り、更地にして最高値で売却する
最も手残りの現金が大きくなる王道のルートです。 入居者と個別に面談を重ね、立ち退き合意書を締結して退去してもらいます。 立ち退き料の相場は、豊島区の低額家賃アパートの場合、「近隣の同等物件への引越し代+初期費用(礼金・仲介手数料等)+家賃差額の1〜2年分(合計でおよそ数十万〜150万円程度/世帯)」が実務上の目安となります。 さらに、高齢入居者の最大の不安は「高齢を理由に次の賃貸審査に落ちるのではないか」という点です。金銭だけでなく、地域の高齢者向け住宅や福祉連携アパートを大家側が代理で見つけて契約をサポートしてあげる「移転先あっせん」を行うことで、驚くほど円満に退去が進むケースが多々あります。
出口2:豊島区の「不燃化特区の解体助成金」を活用する
入居者の退去が完了した後、建物を解体する際に絶対に使うべきなのが、第148回でも解説した豊島区の「不燃化特区・老朽建築物除却助成制度」です。 池袋本町、上池袋、長崎、南長崎などの指定エリア内にある昭和56年以前の危険アパートであれば、解体費用に対して区から最大数百万円単位の手厚い補助金が交付されます。自腹の持ち出しを最小限に抑えて綺麗な更地を作り、大手建売ビルダーへ相場通りの満額で売却します。
出口3:入居者がいる状態のまま「プロの再生業者へ現状売却」する
「遠方に住んでいて立ち退き交渉に通う時間がない」「入居者と顔を合わせて揉めたくない」という場合。 入居者が住んでいる状態(賃貸借契約をそのまま引き継ぐオーナーチェンジの形)で、築古アパートの立ち退き・再生を専門とする不動産買取業者へ丸ごと売却します。 更地相場よりは2割〜3割ほど引かれますが、立ち退き交渉の精神的ストレス、立ち退き料の持ち出し、解体費用の先払いをすべてゼロにして、数週間で即座に現金化して逃げ切ることができます。
4. 【実例】池袋本町の木造アパート・2名の高齢入居者に移転先を手配し、更地化して5,400万円で売却した事例
豊島区池袋本町にある木造2階建てアパート(昭和50年築・全6室・敷地32坪)を相続した長男のY様(50代・会社員)の事例です。
・課題
6室中4室は空室でしたが、1階に70代男性、2階に80代女性が長年暮らしていました。毎月の家賃収入は2人合わせて7万5,000円。 しかし、外壁のモルタルが剥がれ落ち、屋根のトタンが強風で鳴る危険な状態でした。Y様自身で「建て替えたいので退去してほしい」と手紙を出したところ、入居者から「年金暮らしで他に行き場がない。追い出すなら訴える」と頑なに拒否され、当方へご相談に来られました。
・プロの介入と解決
私たちは入居者が頑なになっている原因が「金銭の不満」ではなく、「高齢による住居喪失の恐怖」にあることを見抜きました。
弁護士監修のもと、地域のケアマネジャーや高齢者対応の賃貸仲介会社と連携。 近隣にあるバリアフリー対応の高齢者向け民間賃貸住宅を2件確保した上で、入居者と直接面談しました。 「新しいお部屋は1階で段差がなく、買い物も便利です。引越し代と新しい部屋の契約金・火災保険料は全額こちらで負担し、さらに立ち退き解決金として各100万円をお支払いします」と具体的な安心材料を提示しました。
2名の入居者は快く納得され、2ヶ月の間に無事転居が完了。 空っぽになったアパートに対し、直ちに豊島区役所へ「不燃化特区の老朽除却助成」を申請し、解体費用の大半を区の助成金でカバーして更地にしました。
・結果
接道状況の良い整形地であったため、大手建売会社による競争入札を実施。 更地となった敷地は「5,400万円」の満額で売却が成立しました。 立ち退き費用と諸経費を差し引いても、Y様の手元には「約4,800万円」の純利益が残り、倒壊の恐怖と赤字の維持費から完全に解放されました。
昭和の遺産である豊島区の木賃アパートは、親世代にとっては誇らしい資産だったかもしれませんが、現代の相続人にとっては放置すれば命取りになる高リスク資産です。
入居者がいるからと放置を続けて入居者の孤独死や建物の倒壊事故が起きてしまえば、物件の資産価値は暴落し、近隣や遺族への補償問題へと発展します。 入居者がまだお元気で対話ができる今のうちに、福祉と法務を組み合わせた適切な立ち退き実務を進めるか、現状有姿での業者売却を選択することが、先祖の土地を次の世代へ安全につなぐ確実な道となります。
シェアする