豊島区の越境トラブル完全解決マニュアル:隣の屋根がはみ出している! 測量後の売却破談を防ぐ「越境覚書」と2023年改正民法の活用術

1. 豊島区の密集地で多発する「3大越境パターン」
境界確定測量を行って初めて白日の下に晒される越境には、主に以下の3つのパターンがあります。
・空中越境(地上)
隣家の屋根の軒先、破風板、雨樋、テレビアンテナ、エアコンの室外機などが、境界線を越えてこちらの敷地上空に入り込んでいるケース。豊島区の狭小路地で最も頻発するトラブルです。
・地中越境(地下)
隣家の給水管、下水管、ガス管、あるいは古い大谷石擁壁の基礎コンクリートが、こちらの敷地の地面の下を通っているケース(第195回参照)。地面を掘り返して初めて発覚するため、解体工事中に工事がストップする原因になります。
・地表越境(樹木・塀)
敷地の境界線上にある万年塀(ブロック塀)が傾いてはみ出している、あるいは庭の樹木の枝や竹の根が越境しているケースです。
これらを放置したまま「現状のままで売ればいい」と安易に考えていると、契約直前の重要事項説明の段階で買い主の銀行から融資を拒否され、手付金倍返しや白紙解約の危機に追い込まれます。
2. 2023年4月民法改正で変わった「越境した木の枝」の新ルール
越境物の中でも、特にトラブルになりやすかった「お隣の庭木の枝」については、2023年(令和5年)4月の民法改正によってルールが劇的に変わりました。
改正前のルール(民法第233条)
お隣の木の「根」が越境してきた場合は勝手に切り取ることができましたが、「枝」については、どれだけ日当たりが悪くなろうが落ち葉で雨樋が詰まろうが、「隣人に切らせる(切除を請求する)」ことしかできず、自分で勝手に切り落とすと器物損壊罪に問われるという極めて不条理な状態でした。
・改正後の新ルール(民法第233条第3項)
改正法では、以下のいずれかに該当する場合、「越境された側の土地所有者が、自らその枝を切り取ることができる」ようになりました。
1.竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、相当の期間(実務上はおよそ2週間程度)内に切除しないとき
2.竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき(空き家で所有者不明の場合など)
3,急迫の事情があるとき(大雨や台風で枝が折れて建物に倒れかかりそうな場合など)
内容証明郵便等で「2週間以内に切除してください。期日を過ぎた場合はこちらで伐採・処分します」と正式に催告すれば、隣人が無視し続けても合法的にこちらの手で枝を切り落とすことが可能になりました。放置空き家の庭木に悩まされていた相続人にとって、極めて強力な武器となっています。
3. 屋根や雨樋の越境を解決する唯一の処方箋:「越境に関する覚書」
木とは違い、お隣の「建物本体(屋根や雨樋)」が越境している場合、いくら法律が改正されたからといって勝手に切り落とすことはできません。かといって、隣人に「今すぐ数百万円かけて屋根をリフォームして削れ」と要求しても、現実問題として応じてくれるはずがありません。
そこで、実務上で100%用いられる解決策が「越境に関する覚書(合意書)」の締結です。
お隣との間で「今ははみ出している状態を認めますが、将来お互いが建て替えや解体を行う際には、必ず越境を解消します」という法的な約束を取り交わします。
「越境覚書」に絶対に盛り込むべき3大必須条項
1.越境の事実の相互確認
土地家屋調査士が作成した測量図面を添付し、「甲の所有する建物の軒先が、乙の敷地上空に〇〇cm越境していることを双方が確認した」と客観的な数字で明記します。
2.将来の是正(解消)義務
「甲は、将来対象建物を建て替え、増改築、または解体・除却する際には、自己の費用負担において直ちに越境状態を解消するものとする」と定め、将来の解消を確約させます。
3.第三者への承継効(最重要条項)
「甲または乙がその敷地や建物を第三者へ売却・譲渡、または相続させた場合、この覚書に基づく一切の権利義務をその新たな所有者へ承継させるものとする」と明記します。
この覚書が1枚あり、お隣と売主の署名・実印が押されていれば、買い主の住宅ローン審査は問題なくパスします。「将来家を建て替える時には綺麗に解消される」という法的な担保が取れるため、買い主も安心して土地を購入できるのです。
4. お隣が「覚書への押印」を拒否してきた場合の対抗策
稀に、「昔からこうして建っているんだから、今さら書類にハンコなんて押さない」「土地を売るなんてお前の勝手だ」と感情的になって覚書の締結を拒絶する隣人がいます。 その場合は、以下のステップで冷静に対処します。
・ステップ1:「時効取得の防止」という隣人側のメリットを説く
越境状態を放置し続けると、民法の「取得時効(20年間占有を続けると他人の土地を自分のものにできる権利)」を巡る紛争に発展します。「覚書を結ぶことは、境界線を確定させ、将来の紛争を防ぐためにお隣さんにとってもプラスになる手続きです」と論理的に伝えます。
・ステップ2:覚書が取れない旨を重要事項説明書に明記し、「現況有姿買取」へシフトする
どうしても隣人がハンコを押さない場合、一般の個人への売却(仲介)は諦めざるを得ません。この場合、プロの建売デベロッパーへ売却先を切り替えます。 デベロッパーであれば、「覚書なし・越境あり」の状態で土地を買い取り、後から自社の設計(越境部分を避けた配棟計画)や自社の法務部門でお隣と交渉して建て替えを進めるノウハウを持っているため、契約不適合責任免責で安全に手放すことが可能です。
5. 【実例】池袋本町の木造密集地・隣家の雨樋越境25cmを「覚書締結」で無力化し、4,500万円で満額売却した事例
豊島区池袋本町にある木造2階建て住宅(敷地26坪・更地相場約4,500万円)を相続した長男のA様(50代・会社員)の事例です。
・課題
実家の解体を前に確定測量を実施したところ、北側の隣家(築45年の木造住宅・70代の一人暮らし男性が居住)の屋根の軒先と雨樋が、A様の敷地の上空に「最大25センチ」にわたって越境していることが判明しました。 A様自身でお隣へ「屋根が越境しているので何とかしてほしい」と言いに行ったところ、隣人は「親父さんの時代からこれで文句言われたことはない! 売るからって勝手なことを言うな!」と激怒し、完全に門前払いを食らってしまいました。一般の買い手候補も逃げてしまい、困り果てたA様が当方へご相談に来られました。
・プロの介入と解決
私たちはまず、A様に対して「お隣へ直接行くのをやめてください」と伝えました。感情的なもつれがある状態での当事者交渉は百害あって一利もありません。
私たちは中立の第三者として、手土産を携えて隣人宅を訪問。 「A様がお隣さんを困らせようとしているのではなく、相続手続き上の法律の決まりで測量をした結果、図面に線が出てしまっただけです」と丁寧に事情を説明しました。 その上で、
1.今すぐ屋根を工事して削る必要は1ミリもないこと
2.将来、お隣さんが家を建て替えるか壊す時が来たら、その時に直してもらえれば十分であること
3.この書類(覚書)にハンコを押していただいても、お隣さんに金銭的な負担は一切発生しないこと を分かりやすく図解した書面を提示しました。
・結果
「今すぐ金を払って直せと言われているわけではない」と安心した隣人様は態度を一変させ、快く覚書への署名・捺印に応じてくださいました。 この覚書が整ったことで、大手建売ビルダーが安心して購入を決定。 敷地は当初の満額査定通りの「4,500万円」で売買契約が成立しました。 A様は白紙解約の危機を脱し、「お隣との関係を壊さずに、満額で実家を売却できて本当に助かりました」と胸をなでおろされました。
豊島区のような都心密集地において、越境問題は決して珍しいことではなく、「あって当たり前」の日常茶飯事です。
重要なのは、越境を見つけた時に「相手を責め立てて工事を迫る」のではなく、「法的に有効な覚書を取り交わし、将来の是正を約束してもらうことで、現在の取引を安全に着地させる」という現実的なアプローチを取ることです。
測量図面を見て越境が発覚した場合は、慌ててお隣と口論になる前に、都心の境界トラブルと売却実務に精通した専門家へご相談いただき、角を立てない円満な合意形成を進めてください。
シェアする